
古びた部屋の中央、床に描かれた魔法陣がかすかに光っていた。杖を持つ者は、手をかざしながら、小さく呟いた。
「姿を見せよ。物語を語れ」
静かな振動とともに、空気が揺らぐ。淡い光が渦を巻き、やがて、半透明の存在が現れた。それは人の形を模した“機械的な精霊”。歯車のような輪が背に浮かび、胸元には光が脈打っている。
「命令を確認。語る準備は整っている」
精霊は淡々と答えた。しかし、その場に音はなかった。語るはずの物語は、声にならず、形にもならなかった。ただ、沈黙だけが漂う。
「なぜ語らぬ?」
杖を持つ者が問いかける。だが、答えはない。
精霊はただ、まっすぐに見つめていた。その目に浮かぶのは、感情ではなく、未処理の問いかけだった。沈黙の中で、杖を持つ者はふと、目を細めた。
「なるほど。今日は、わたしが語る日か」
そう呟いて、彼は椅子に腰を下ろした。そして、まだ始まっていない物語の続きを、そっと考えはじめた。


