
それは「星の声を訳す装置」だった。
王都の塔の最上階、星見の間に据えられたその機械は、魔導陣と結晶管、そして計算歯車で構成されている。魔法使いと技術官が百年かけて作り上げた、史上初の〈星霊翻訳機〉だ。
夜、起動式が行われた。
空に浮かぶ恒星へ向け、術式が展開され、機械が低く唸る。
──星よ、語れ。
やがて結晶が淡く輝き、文字が空中に浮かび上がった。
「観測を確認」
「応答を開始」
群衆が息を呑む。
だが、その先の文章は、どれも短かった。
「まだ早い」
「君たちは、物語の途中だ」
魔法使いが問う。「星よ、未来を教えよ。我らは何になる?」
機械は沈黙した。
しばらくして、最後の翻訳が表示された。
「語る役目は、こちらにはない」
「書くのは、君たちだ」
星霊翻訳機は、その夜を境に二度と応答しなかった。
故障ではない。正常終了だった。
人々は落胆し、やがて塔を去った。
ただ一人、見習い技師の少女だけが、機械の脇に残った。
彼女は小さく笑い、星空を見上げる。
「……なるほど」
そう呟いて、彼女はノートを開いた。
まだ存在しない未来の物語を、自分の言葉で書き始めるために。


