魔法は更新されません

 古代魔導書の最終頁には、そう書かれていた。

 《この魔法は、最終更新より三百年が経過しています》

 王立学院の地下書庫で、それを見つけたのは修復士のリュカだった。
 文字は古語だが、意味ははっきりしている。まるで機械の警告文だ。

 「魔法に……更新?」

 訝しみながら頁をめくると、呪文の構造が見えてきた。
 詠唱、媒介、演算、出力。
 それは祈りではなく、設計だった。

 リュカは気づく。
 この世界の魔法は、かつて“誰か”が作った体系なのだと。

 だが、肝心の更新者はもういない。

 試しに、リュカは自分で呪文を書き足した。
 文法を整え、無駄な回路を削り、効率を上げる。

 詠唱すると、魔法は発動した。
 炎は静かで、正確で、以前よりもずっと美しかった。

 その瞬間、魔導書の文字が変わる。

 《更新を確認》
 《管理者権限:一時付与》

 リュカは、そっと本を閉じた。

 「……なるほど」

 神が去ったあとも、世界は動いていた。
 ただ、誰かが続きを書くのを待っていただけなのだ。